ジブリの呪い?
日本の株・外為投資家が"ジブリの呪い"に震えあがっていると米経済紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)が報じて話題になっている。
日本テレビ系列局がスタジオ・ジブリのアニメ映画を放送する度に東京市場で株・外為が大荒れになるというのだ。2010年1月以来、ジブリ作品は24回放映されてきたが、そのうち3分の2近くで放映後の最初の取引日には東京市場で円高が起こり、また約半数の場合で株価が下落したという。馬鹿も休み休み言え。そんなものに因果関係があるわけがない。マスコミ業界でいうところの典型的な「面白ネタ」あるいは「暇ネタ」である。書いた記者たちは思わぬ評判に有頂天だろう。それともアベノミクス効果で昨年から始まっ急激な株高・円安でマーケット参加者が浮かれている印なのか。WSJから意見を求められた日本テレ広報がコメントに値しないと答えたのはなかなか骨太で小気味がいい。
実際のマーケットは世界最強である米国経済の動向に一喜一憂している。そのためバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長のどうでもいいような発言にまで注目が集まっている。思い返せば、前任者のアラン・グリーンスパンの場合もそうだった。議長時代は同氏の口から発せられる一言がマーケットでは"神の御宣託"扱いされた。だが結局、金融緩和政策によって米住宅バブルを引き起こし世界金融危機を招いた張本人だったことが指摘され、評判は地に堕ちてしまった。
現在の米国の経済・金融動向を見る上でむしろ注目すべきは今年1-3月期の財務勘定ではないか。家計の純資産が前期比3兆ドル増えて70.3兆ドルとなり、住宅バブル崩壊前のピークをついに上回っている。つまり株価や住宅価格の上昇によって家計のバランスシートの穴埋めが終わって景気回復がいよいよ本調子になってきたということだろう。ターニングポイントだ。というわけでバーナンキ議長は量的緩和縮小を自分の任期中に決めておきたいと思っているのは周知の通り。月850億ドルの資産買い入れによるFRBのバランスシート急拡大というリスクを恐ろしくて放置しておくわけにはいくまい。最初の利上げは15年半ばぐらいか。一方、日本は金融緩和政策持続で当分利上げを出来ないからドル円は110円台の円安ドル高に向かう可能せいがある。こうして見るとFRB議長の"御宣託"や"ジブリの呪い"よりも生データを見た方がよっぽど先行き見えることが分かる。
蟹瀬誠一(かにせ せいいち)プロフィール
過去コラム一覧
ジャーナリスト・キャスター、明治大学国際日本学教授
(株)アバージェンス取締役、(株)ケイ・アソシエイツ取締役副社長
掲載日:2013年8月15日