貧弱な日本の寄付金税制、それでも寄付をしよう!
今年も余すところ2カ月。最終ターンです。
税金は、サラリーマンや会社役員、自営業者も、個人所得については、この時期で総まとめに入ります。ご自身の所得をちょっと総ざらえして、今年は寄付を考えてみてはいかがでしょうか。
東日本大震災の際には、個人寄付だけで4,874億円寄せられ、15歳以上の77%の8,512万人が寄付しました。(寄付白書2012版)その後も継続して寄付している個人・法人は多数いますが、震災からもうじき3年。盛り上がりが少し低調となった現在、今一度寄付を見直してみませんか。そして今年の寄付税制を受けるなら行動開始です。
■シビリアンコントロール機能としての寄付
寄付金というとマイクロソフトのビル・ゲイツや投資家のウォーレン・バフェットのビル&メリンダ・ゲイツ財団が、20億ドル以上の基金で、さらにギビング・プレッジで米国の富豪の寄付を呼びかける活動が有名です。
富裕層が自らの名を冠してファンデーションを作るといった社会貢献を英雄的行為ともてはやされるには理由があります。徴収された税金の使い道は官僚に任されますが、寄付団体が主導的に資金を使うことで独自の政策を実現していくことも可能です。いわばシビリアンコントロールの一形態として寄付制度が機能するからです。
■低い日本の寄付水準
米国の寄付金額の対GDP比はOECD36カ国中トップ、日本は29位。米国の1人あたり寄付13万円に比べ日本は2,500円です(三菱総合研究所調査)。日本のGDPは世界3位なのに、です。
この差は、宗教の違い、そしてコミュニティを戦いにより形成してきた歴史の違い、ノブレス・オブリージュ(持てる者が負う)という文化の違いだけでなく、歴史的な税制の違いに原因があるといわれていました。
■貧弱な日本の寄付金税制
個人の国・自治体・特定の公益法人等の適格な団体への寄付は寄付金控除又は税額控除が受けられます。所得控除や税額控除は所得の40%を限度、税額控除は税額の25%を限度とするなどの上限がありますが、従前は、足切り1万円、所得控除は所得の25%までなど制限が多く、緩和されたのはこの数年です。法人は、国や自治体への寄付は全額損金、特定の公益法人等へは、資本金額等を基礎に限度額があるため、日本の寄付が法人中心に行われてきた経緯は、この税制が理由です。
これだけ見ると、所得の50%まで所得控除できる米国に追いついてきたように見えますが、問題は、寄付の受け皿です。米国では100万超の団体が税優遇対象であるのに、日本は2万超。NPOなどが対象団体になるための審査とチェックが極めて厳しいためです。
寄付しても税軽減が少ないことで寄付が普及しない、寄付を受けられないため、新たな公益団体の設立が困難、という負のスパイラルが、日本の寄付の文化の定着を阻んできたといえます。
■寄付金税制でいくら減額になるか
2011年3月11日の東日本大震災は、低調だった日本人の寄付マインドに火を付けたといっていいでしょう。それに呼応して税制でも、認定対象団体を増やし、税額控除制度を適用できる仕組みを整えました。
平成23年以降、確定申告で寄付金控除を適用して税額還付を受けた人は多いでしょう。
所得税は寄付金控除や税額控除、住民税は税額控除、というのが寄付金減税制度です。給与収入600万円の人が10万円寄付すると、税金は68,000円減額されます。
■震災関連寄付金は控除限度額が2倍に
国や被災地自治体その他直接震災寄付としての寄付は震災関連寄付金として、所得の80%限度まで拡充されています。
■株主優待のような「ふるさと納税」
2008年からのふるさと納税制度では、地方自治体への寄付金については、所得税住民税の税額軽減を受けられるだけでなく、自治体から記念品が贈られます。地域の果物や銘柄牛など、よりすぐりの品を楽しみに、株主優待感覚で全国各地にふるさと納税をする人もいます。住所地と違う自治体に寄付しても、住所地の自治体への納税が減額されますから、人気の自治体ほど、他の自治体の住民税まで吸収してます。自治体は地元企業から特産品を買い付け、記念品とし、地域振興を図れば、法人住民税収も増加します。そんな仕組みで、気合いを入れた記念品が贈られてくるというわけです。
■高所得者ならほぼ全額還付
給与収入300万円の人が10自治体各1万円ずつ計10万円のふるさと納税をすると、減税額は30,300円。
年収600万円の人が同額寄付すると、68,000円、1千万円の人は実に97,400円の減税となります。同じ寄付額で減額が違うのは、本来の住民税額の制限を受けるからです。10自治体各3千円相当の記念品、計3万円がもらえれば、年収600万円の人でもほぼ寄付全額が戻り、それを越える人はむしろ儲けが生じる計算になります。
寄付したことなんかないよ、という人は、まずはお手軽なふるさと納税からチャレンジしてみてはどうでしょう。ふるさと納税には、申込書の取得など事前手続が必要です。年末ぎりぎりでではアウトですから、今のうちに取りかかってください。
飯塚 美幸(いいづか みゆき)プロフィール
過去コラム一覧
税理士・中小企業診断士
静岡大学人文学部卒業
平成7年 飯塚美幸税理士事務所開業
平成25年 松木飯塚税理士法人設立、現職
事業承継協議会会員、千代田区議会政務調査諮問委員
不動産コンサルティング登録技能士試験委員、日本税務会計学会委員
著書:
「各年度版よくわかる税制改正と実務の徹底対策」(日本法令)、「財産を殖やすための相続対策プログラム」(日本法令)、「税制改正と資産税の実務Q&A」(清文社)、「最新相続税の物納実務取扱事例Q&A」(日本法令)、「新版『資本の部』の実務」(新日本法規出版)
資産税の税理士ノートhttp://expresstax.
掲載日:2013年11月12日