「サラリーマンの自腹経費で所得税節税?-特定支出控除」
新年度になり、今年のビジネスライフプランを立てた人も多いでしょう。サラリーマンが、研修や資格取得などアグレッシブなプランを立てている場合、税金プランも組み込んでみてはいかがでしょうか
■手取りの減った高給サラリーマン
平成25年から年収1,500万円超のサラリーマンの給与所得の非課税が245万円で頭打ちになりました。
自営業者には業務に関わる必要経費が認められますが、会社員は、それに代わって「給与所得控除」という給与の非課税枠があります。
給与収入が1,500万円を超える方については、給与収入が2,000万円あっても3,000万円あっても、必要経費は245万円しか認めないよ、ということです。
前年以前と比べ、ベースアップしたのに、手取りが減ったと嘆いている御仁もいらっしゃるでしょう。
一方、俺のサラリーは1,500万円もないよ、という方も、ちょっと待った。無関係ともいえないのが、特定支出控除制度です。
■その代わり?の特定支出控除拡充
その代わり、といってはナンですが、サラリーマンの給与所得控除に代えて、「特定支出控除」の制度(※1)が拡充されました。
特定支出とは、仕事のために「自腹を切った経費」です。
※1 特定支出控除制度(PDF)
通常、会社の業務のために使った経費は会社負担です。しかし、通勤費や転勤に伴う転居費、自発的に参加した研修費といったもので自腹を切った場合には、サラリーマンが仕事をする上で必要だったと思われるものでも、会社が負担してくれない場合も多々あるでしょう。それは、特定支出として自分の所得から差し引いて税負担を軽くしようね、というのが特定支出控除制度です。
ただ従来は、自分が使った特定支出が給与所得控除を上回っている場合だけ、上回った分をさし引くという制度だったのです。
1,500万円を超えるケースでは、給与所得控除は245万円。月20万円以上、ポケットマネーで会社の業務のために支払いをするのは難しかったでしょう。
そのため、平成20年のデータでも、この制度を使った人は、全国でたった6人でした。
■平成25年度改正で身近な制度に
ところが、平成25年以後、特定支出が「給与所得控除(※2)の2分の1」を超えていれば、控除対象となったため、適用可能性がでてきました。
※2 給与所得控除(国税庁のホームページ)
例えば給与収入1,500万円なら、一律125万円、月10万5千円、給与600万円の人は87万円、月72,500円を超えれば、特定支出控除が有利という制度になりました。
その年の給与等の収入金額合計 | 特定支出控除額 |
1,500万円以下 | 自己負担支出額-給与所得控除額 ×1/2 |
1,500万円超 | 自己負担支出額-125万円 |
■特定支出とは
下記1~6の職務に必要な支出で、自己負担した額をいいます。
ただし、給与の支払者の発行する証明書が必要です。
1.通勤費
2.転居費
3.研修費
4.資格取得費
平成25年以後、弁護士、公認会計士、税理士等の一身専属の資格も対象です。
5.帰宅旅費
6.勤務必要経費
次の合計65万円までの支出が対象です。
(1) 図書費
(2) 衣服費 勤務場所で着用が必要な衣服
(3) 交際費等 得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する
接待、供応、贈答その他のための支出
■特定支出控除を使うためには
1.勤務先が証明を出すかどうかの確認
まず、給与支払者である勤務先が、自腹を切った支出について、職務の遂行に必要と認めて、会社の社判で証明書を発行する制度があるかどうかです。
自分自身が決裁権者である場合もあるでしょうが、そうでないならば、上司に予め確認した方がよいでしょう。
広告代理店などでアルマーニのスーツが特定支出となるかどうかは、会社の判断、証明書次第となります。
2.自分の自己負担支出での適用可能性
自分の年間の自己負担支出が給与所得控除額の1/2を越える可能性があるかチェックします。手元にある昨年の源泉徴収票の「支払金額」と「給与所得控除後の金額」の差額が給与所得控除額の目安です。今年昇給するなら、最低限、昨年のこの1/2を越えていなければ対象になりません。今年の具体額は上記コメント(※2)の国税庁ホームページで確認できますが、年末になってからでは遅いので、今から試算しましょう。
3.支出のつど領収書を取得、保存
自分にも適用可能性がある、という場合は、対象経費の領収書を取得し、保存することです。サラリーマンの場合、領収書を受け取る習慣がありませんから、意識して確保します。
これも年末に慌ててかき集めても遅いのです。領収書の宛名は、自分の氏名です。
4.証明書の申請
年間まとまったところで、会社に「特定支出に関する証明書の依頼書」(※3)を提出して発行してもらいます。
※3 特定支出に関する証明書の依頼書(PDF)
5.所得税確定申告
「特定支出に関する明細書」を作成し、会社から取得した「特定支出に関する証明書」を添付のうえ、翌年3月15日までに所得税確定申告書を所轄税務署に提出します。
還付税額は4~5月までに還付されます。
もちろん自腹でなく、会社が負担してくれる方がお得には違いありませんが、そうでない場合は、チャレンジしてみてください。
飯塚 美幸(いいづか みゆき)プロフィール
過去コラム一覧
税理士・中小企業診断士
静岡大学人文学部卒業
平成7年 飯塚美幸税理士事務所開業
平成25年 松木飯塚税理士法人設立、現職
事業承継協議会会員、千代田区議会政務調査諮問委員
不動産コンサルティング登録技能士試験委員
著書:
「各年度版よくわかる税制改正と実務の徹底対策」(日本法令)、「財産を殖やす相続対策プログラム」(日本法令)、「税制改正と資産税の実務Q&A」(清文社)、「最新相続税の物納実務取扱事例Q&A」(日本法令)、「新版『資本の部』の実務」(新日本法規出版)、「小規模宅地特例-実務で迷いがちな複雑・難解事例の適用判断」(清文社)
資産税の税理士ノートhttp://expresstax.
掲載日:2014年4月25日