まとまったお金で投資、というもっともらしい理屈にダマされてはいけない
まとまったお金で投資しましょうといわれると、つい頷いてしまう
投資初心者ほどその傾向が強いのですが「投資はまとまったお金(だいたい100万円くらい)でやるもの」と思っているようです。
金融機関の人やファイナンシャルプランナーも「投資は種銭を貯めてから」「投資はまとまったお金ができてから」と助言する人が多いので、やはりそうかと思い込んでしまいます。
お金について「もっともらしい理屈」はつい頷いてしまいがちですが警戒すべきです。一度疑ってかかる必要があります。
実は、まとまったお金で投資をする必要など、まったくないからです。特に投資初心者ほどそれは当てはまります。
まとまったお金にこだわるアドバイザーは信頼に値しない
もし、あなたに投資のアドバイス(もしくは投資商品のセールストーク)する人が「投資はまとまったお金で」と行ってきたら、その相手は信頼に値しないと考えてもいいでしょう。
まず、セールストークとして考えた場合、彼の本音はこうです。「ひとりを相手にいろいろ説明して、1万円しか売れないよりは、一度に100万円売れたほうがラクだし成績も100倍つくしな」
営業マンとしては正しい発想法かもしれませんが、残念ながらあなたの投資の相談相手としては不適格です。もともとあなたが買うと得をする売り手が信頼ある相談相手にはなりにくいのですが、こうした言葉を口にするならなおさらです。
あるいは投資のアドバイザーなる人がまとまったお金にこだわるのでしたら、その人は投資の経験がないか、誤ったテキスト(売り手の理屈で書かれたテキスト)を底本にあなたに投資の話をしているに違いありません。こちらもやはり信頼に値しません。
実際問題として「投資はまとまったお金で」という前提は今や存在しないのです。
投資は少額から始められるし、少額から始めるべきである
「まとまったお金がなければ投資ができなかった」時代においては、投資にまとまったお金、という発想法は正解です。かつては株価も高いうえ1,000株単位でしか購入できない時代がありました。あるいは海外へ投資をしたいと思うとまとまった最低購入金額が求められていました。
しかし、現在において、投資をスタートさせるための金額は本当に少なくなりました。個別の株式においては、株式の分割は単位株の引き下げが進んだため、10万円で買える銘柄は1,500を超えます(ETF含む)。5万円でもなお700銘柄以上を投資対象に捉えることができるほどです。
一般的なネット証券会社では、毎月少額からスタートできる積立投資信託を提供しています。投資信託はもともと少額から購入可能でありながら分散投資を行える便利な金融商品でしたが、さらに金額を低く設定できます。マネックス証券や楽天証券は1,000円から、SBI証券やカブドットコム証券はなんと500円から積立投資をスタートできるほどです。
日本株のインデックスファンドと外国株のインデックスファンドを2本購入すれば世界中の株式を投資対象に収めることができますが、最小なら1,000円で行えるのが現在の投資環境なのです。
投資経験が浅い人が高額の投資をいきなり行うべきではありません。同率の損失が生じた場合、高額の投資をしていたほうが損失額は大きくなるわけですから、投資経験が浅い人が少額で投資することは正しい戦術です。
しかもそれを実行する環境は存在しています。それなのに「まとまったお金で」という人は何かの意図(もしくは誤り)がある、というわけです。
100カ月積立貯金して100月後に初投資と、いきなり積立投資信託100カ月はどちらが有意義か
もちろん、「投資について学びながら貯金をし、まとまったお金ができたら初めて投資にチャレンジする」という戦略もあり得ます。しかしこれもオススメしません。
仮に1万円を毎月積立貯金し100万円貯まったら(つまり100カ月後)投資にチャレンジしたいという人がいたとします。100カ月のあいだは投資の本を読んだりニュースを見て学ぼうというわけです。
しかし、100カ月後こうした人が陥るのは「大事な100万円をなくしたくない」「いきなり100万円も投資をするなんて怖い」というジレンマです(しかもその判断は正しい!)。
それならばいっそ、「毎月1万円ずつ積立で投資信託を買い、少額から実践に入りつつ投資のことも徐々に学んでいく」という戦略をとればいいのです。100カ月後に元本を上回っているかは保証の限りではありませんが、それ以上の価値がある100カ月になっているはずです。それはつまり「100カ月の投資経験」です。
もちろん、毎月数千円で行ってもかまいません。しかし、実戦としての100カ月の投資経験は、机上の勉強よりも何十倍も価値がありますし、気がつけば8年後には無理なく投資残高を増やしていくことにも成功しています。100カ月後には株価の数百円の騰落に一喜一憂せず、落ち着いて投資をできる個人投資家に成長しているはずです。
あなたにセールスしてくる側は、「毎月1万円の積立投資信託」という営業成績はあまりおもしろいものではありません。積立投資信託は自分でセットすることが大切です。
しかし、売り手におもしろくない買い方は、買い手のあなたにとってはよい買い方ではないでしょうか?
「まとまったお金で投資」という理屈にだまされず、初心者は初心者らしい投資でデビューしたいものです。
山崎 俊輔(やまさき しゅんすけ)プロフィール
過去コラム一覧
1972年生まれ。中央大学法学部法律学科卒。AFP、消費生活アドバイザー、1級DCプランナー。
企業年金研究所、FP総研を経て独立。商工会議所年金教育センター主任研究員、企業年金連合会調査役DC担当など歴任。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。
論文「個人の老後資産形成を実現可能とするための、退職給付制度の視点からの検討と提言」にて、第5回FP学会賞優秀論文賞を受賞。近著に『お金の知恵は45歳までに身につけなさい』(青春出版社)。日経新聞電子版「20代から始める バラ色老後のデザイン術」など連載多数。
投資教育家として、twitterでも4年以上にわたり毎日「FPお金の知恵」を配信するなど、若い世代のためのマネープランに関する啓発にも取り組んでいる(@yam_syun)。
ホームページ: http://financialwisdom.jp
掲載日:2014年5月13日